君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―

かけられた疑い

その日、森村慎吾は機嫌が悪かった。夏樹が教室に入るといきなりゴミ箱が飛んできた。
「うわっ」
「森村、落ち着けよ」
周りの男子が慎吾の肩を掴んでいる。しかし、彼らの顔は笑っていた。慎吾をけしかけたのは彼ら自身なのだ。
「お前はやっぱり人殺しだったんだな」
慎吾は制止を振り切って夏樹に詰め寄るが、夏樹は気にせず席についた。殺気を感じた女子たちは一斉に教室を出る。
「俺が誰を殺したって?」
「瀬名のことだよ!」
「どうして俺が瀬名を殺すんだよ」
「知るかっ」
慎吾は夏樹の机を叩く。
「じゃあ何で俺が殺したなんて言うのさ」
「お前、瀬名と付き合ってたんだろ」
「そんなわけあるかよ」
夏樹は何度か結子の家に招かれたが、それはクラスメートという関係を超えるものではない。何より結子は恋人がいると話していたではないか。
「瀬名から聞いたんだぞ」
「嘘だろ。俺は付き合った覚え無いけど」
「じゃあお前は遊びだったってことかよ」
夏樹の言葉は火に油を注ぐ物になってしまった。慎吾の怒りは頂点に達していた。
「早く自首しやがれ、人殺し!」

ふと周囲のクラスメートたちに目をやると、一人が週刊誌を持っているのが見えた。事件から一ヶ月。どうやら特集が組まれていたらしい。そこにあることないこと書かれていたのだろう。

「渡会くん!」
「来栖、おはよう」
良人は教室の外で騒ぎが終わるのを待っていたようだ。
「おはよう。大丈夫?」
「ん?」
夏樹の反応を見て良人は話題を変えることにした。
「ああ、何でもないよ。今日って体育あるけど、何やるのかなぁ?」
「たぶん剣道じゃないかな」
「剣道かー。やったことないなぁ」
不安げな良人を見て、夏樹は呟いた。
「俺が教えてやろうか?」
「え!渡会くん、剣道できるの?」
「ちょっと、ね」
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