彼のぽけっと

入学式

まだ肌寒い北国の朝。
いつもなら「学校」と言う言葉に憂鬱になるミユだが､この日だけは違った。

「今日から新しい私になる！」

そう､この日から藤崎 美由（ふじさき みゆ）は高校生になる。
今まさに新しい校舎で入学式を行っている。
ついこの間まで､毎日自分をいじめていた人も居ない。

自分を変えるには今しかないのだ。
校長先生の長い話がやっと終わり､教室へと生徒がもどっていく。
生徒のほとんどが女子。共学ではあるが､簿記を中心に教える商業校では珍しくない。
ミユの前にならんでいる子ももちろん女子である。さきほどから､こちらの方をちらちらと振り返り頭を下げている彼女は教室の手前まで来ると自己紹介をはじめた。
「私､日野めぐみ。東中学から来たの。よかったら仲良くしてね。」
少し甲高い声が廊下に響く。人なつっこそうな彼女の笑顔につられて､つい自分もにやける。

「うん。私は藤崎 美由。南中学からだよ。よろしくね。」

高校生活で最初の友達ができた瞬間だった。