カエルと魔女の花嫁探し
 いよいよジーナが心を開き始めた事を察して、セレネーはカエルに「今がチャンスよ」とうながした。

 魔法の声を聞いてカエルは小さくうなずき、月明かりがきれいな夜、部屋でお喋りしている最中に「実は」とジーナに語り始めた。

「私はここより西にある国の王子なのです。悪い魔女に呪いをかけられてしまい、このような姿になってしまいました。……どうか貴女の口づけで、私の呪いを解いて頂けないでしょうか? そして私の妃になって頂けませんか?」

 まじまじとカエルを見てから、ジーナは微笑みを浮かべた。

「分かったわ。お願いだから目は閉じててね、恥ずかしいから」

 そう言って、ゆっくりと顔を近づけ――カエルにキスをした。
 思わずセレネーは水晶球の前で拳を突き上げる。

(よっしゃー! これで元に戻る……んんん?)

 キスをしたフリではなかった。
 なのにカエルはカエルのままで、なんの変化もなかった。

 セレネーも、水晶球の中のカエルとジーナも、一様に呆然となる。
 しばらくしてジーナは、「うーん残念」と軽い調子でつぶやいた。

「王子様と結婚できたら、家族の生活がもっと楽になると思ったのに」

 この一言でセレネーはピンときた。

(この娘、確かに家族思いで気立てはいいわ。でも、家族を幸せにするために結婚したいのであって、相手のために結婚したい訳じゃないのね)

 心から望んでいるのは、生まれ育った家族の幸せ。
 それが悪い訳ではないけれど、カエルの呪いを解くには都合が悪かった。

 セレネーは大きなため息をつくと、杖をクルクルと回した。
 カエルの体が光に包まれ、水晶球から浮き出てくる。
 パアッ、と小さな閃光が走った後、セレネーの目前に呆けたままのカエルが現れた。

「残念だったわね、王子。悪い娘じゃなかったんだけど……まあ、ほら、まだまだいい娘はたくさんいるんだからさ、気を落とさないでよ」

 こちらの話を聞くにつれ、カエルの目に涙がたまっていく。
 それでも泣くのを堪えて「そうですね」と答えたが――。

 ――やっぱり我慢できず、カエルはその場に突っ伏して号泣した。
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