カエルと魔女の花嫁探し
「さあ、うまくやってるかしら王子」

 宿屋へ戻って一晩過ごした後、セレネーは水晶球で二人の様子を覗き見る。

 ジーナはすでに起床して店の準備に取りかかっており、エプロンのポケットには、人から見えないようにカエルが隠れていた。

(よしよし、まず第一弾は成功。やっぱり雰囲気作りは大切ね)

 満足のいく結果にセレネーは笑顔でうなずく。が、すぐに表情を引き締める。

 後はほったらかし、という訳にはいかない。
 しばらく二人を見守っていると、ジーナが大きな貝を下ごしらえし始める。器用にナイフで殻を開け、中の身を取り出していく。

 セレネーは魔法の杖を水晶球へ向け、えいっ、と魔法をかけた。
 すると、次にジーナが開けた貝の中には、ほんのり青みがかった大きな真珠が入っていた。

 ジーナは「まあ!」と驚きの声を上げてから、「これもカエルさんのおかげね」とつぶやいた。

 本当にカエルが幸せを運んでくれると思わせなくては、あっさり投げ捨てられる可能性が高い。

 この嘘を本当にすることがセレネーの役目だった。

(世間知らずだし、元に戻ったらどんな顔かも知らないけど、中身は悪くないと思うのよね。だから王子がどんなヤツかっていうのが分かれば、あの娘の気持ちも動くハズ)

 買い物に出かければ近所の人に野菜や果物をおすそ分けされ、仕事に勤しんでいれば、気前のいい客が「お釣りはいらないから」と余分に払ってくれ――。

 そんな事を続けていく内に、いつしかジーナはカエルに慣れ始め、人のいない所では楽しそうにお喋りをするようになっていった。

 カエルもジーナに好かれようと、彼女が落ち込んでいるれば優しく励まし、困った時には知恵を貸し、少しでもできる事があれば自らも動いていた。

 ある時、ジーナが祖母の形見の指輪を鳥に奪われ、カエルが鳥の巣を突き止め、木に登り、鳥と格闘しながら取り戻した事もある。

 街中でゴロツキに絡まれそうになった時、体を張ってジーナを守った事もある。

 それを見てセレネーは、

(王族って温室育ちで自分じゃなにもできないと思ってたけど、王子は自分が汚れる事も、傷つく事もためらわないのよね。感心、感心)

 と満足しながら、本当に危ない時は魔法でサポートしていた。
< 13 / 34 >

この作品をシェア

pagetop