カエルと魔女の花嫁探し
 左右対称に造られた修道院は、手入れの行き届いた漆喰の白い壁をしており、門扉や窓枠に施された百合の模様が、穢れのない聖なる領域へと高めている。

 まずは様子見をしようとセレネーが修道院へ足を踏み入れると、聖水入りの小瓶を持った中年の修道女が駆け寄り、前に立ちはだかった。

「悪しき魔女よ、ここは貴女のような人が来る場所ではありません。神の天罰が下る前に立ち去りなさい!」

 あまりの形相にセレネーが呆然としていると、女が手にしていた聖水をかけてくる。
 ピシャッと服にかかったが、濡れただけでなにも起きなかった。

「せ、聖水が効かない?! そんなハズは……」

「効かなくて当然よ。確かにアタシは魔女だけれど、悪魔と契約している訳でもないし、悪事も働いていないもの」

 後ろめたい事なんか、これっぽっちもない。とセレネーが胸を張っていると、ようやく女は表情をゆるめて「すみません」と謝罪した。

「確かにそのようですね。この聖水が効かない事が、なによりの証拠ですから……今日はどのような要件でいらっしゃったのですか?」

「フレデリカさんっていう人に会いに来たの」

 その名を出した途端、女の顔が悲しげに曇った。

「……すみません、今は誰ともお会いさせる訳にはいかないのです」

「もしかして、フレデリカさんになにかあったの?」

「貴女も知り合いなら、彼女の美しさをご存知でしょう。容姿だけでなく、清らかで慈悲深い心を持った方だと……そんな彼女に人はおろか、動物までも慕ってくるのですよ。ただ、その美しさに悪魔まで魅了されてしまって、彼女を連れ去ろうとしているのです。それを防ぐために、強力な結界の張られた部屋から出られないのです」
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