珈琲時間
12/9「橋の真ん中で」
(しまった……)
友だちの家からの帰り、何気なく上った歩道橋で、あたしは思わず立ち止まる。日の暮れるのが早い冬の夕方。寒い風を頬に受けながら、足がすくむのがわかる。
(揺れてる……よね)
足もとが、ぐらぐらと動いているのを体で感じ取って、どうしようかと考える。
(さっきは、凪沙と一緒に歩いてたから気付きもしなかった)
知らぬが仏、とはよく言ったものだ。
自他共に認める浮遊感恐怖症。遊園地の絶叫系はもちろん、静かな揺れの観覧車、挙句の果てにはエレベーターでも顔が真っ青になるくらいあたしは「揺れ」というものがダメなのだ。

「高さ」に恐怖はない。その証拠に、高い場所でも足もとに揺れをほとんど感じないか、揺れを感じる余裕がなければ全く平気だったりする。
……例えば、修学旅行で乗った飛行機とか、偶然好きな人と乗り合わせたロープウェイとか。

「……全速力で走るしかないかなぁ?」
この歩道橋を渡らないですむ方法もある。
一本別の道に行けば、そこは横断歩道があるので、しっかりと地面に足を付けて渡れる。
けれど、そこまで歩くとものすごく遠回りになってしまう。
(揺れを感じなければいいんだし。よし!)
そう意気込んで、足を進めた、そのときだった。

反対側の階段に見えた、見覚えのある制服。見覚えのある赤いマフラーと、大きなスポーツバック。

(な、なんで?!)

そこに見えたのは、クラスメイトでも部活の仲間でも、なんでもない、強いてあげるとすれば、学校の夏期講習が一緒で体育祭のときに怪我の手当てをしてもらったくらいしか接点がないのに、何故だか気になって、好きになってしまった岸田雅哉君だった。
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