珈琲時間
 (…………は?)

 そう言われて、途端に頭が理解不能状態を訴える。

 『……ってか、俺メール送ったのって午後じゃん。エイプリルフールに嘘ついてもいいのって、午前中だけだろうが。おまえ待ってた俺の半日をどうしてくれんだよ』
 耳から声は聞こえるけど、やっぱり頭がついていかない。
 (え、えっと、と、とにかくまずは……)

 「わかった。今すぐ帰る」
 『え?』
 「仕事終わったし、今から車飛ばしてすぐに帰るから」
 『……から?』
 「だから、待ってて。久々だし、夕飯おごる」
 『……まぁ、いいか。了解、待ってる』

 ――――― 止まったまま動かない車の中で考える。

 (……なんか、上手く踊らされてるような……)

 冷静になってみると、最初のメールが嘘じゃなかったら、5分後すぐにメールが来たはずだとか、別にあたしが約束を破ったわけじゃないんだから、夕飯おごる必要なんてないんじゃないかとか、午後に嘘ついちゃいけないなんてことが真っ赤な嘘で、本当は今日が何の日かわかってたんじゃないかとか、いろいろ考えが浮かんでくる。

 (そういや、秋原って「ろくな男じゃない」って噂があったよなー)

 毎回懲りずに騙されるあたしを慰めてくれた友人の言葉を今更ながら思い出す。
 確かにそうだ。ろくな男じゃない。そう思うのに、今ここに車を乗り捨てて走り出したい気分に襲われてる自分が嫌になる。

 「ああ、今すぐ超能力者になりたい……」
 そうすれば、ここから瞬間移動も、透視も、テレパシーも出来るのに。
 今すぐに会えるのに、姿が見えるのに、何を考えてるのかわかるのに。

 まだまだ進まない車の中で、あたしはゆっくりと、ブレーキを踏みしめた。

●さて。相手の本心はどこにあるのか。
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