珈琲時間
12/11「階段」
 授業に遅れそうになって、階段を駆け上がる。
 「リッカーっ! 早く早くっ!!」
 一足早く4階に辿りついた葉子ちゃんが急かす。
 それに慌てたのがいけなかったのかもしれない。
 「うわっ」
 4階にたどり着く途中で、思わず足がもつれる。
 (ここで転ぶのは嫌っ!!)
 「リッカ?!」
 頭上から葉子ちゃんの慌てた声が聞こえて、一瞬、胸が危機感に埋め尽くされたけれど。なんとか手すりに手を伸ばして、階段を転げ落ちる事態だけは避ける。

 自分の身体が急激な落下から止まったことを確認して、体勢を立て直す。
 あたしと同じように、4階へと向かっていた生徒も、何も無かったかのように歩き出す。

 「大丈夫?」
 「うん。あー、怖かった。落ちるかと思ったよ」
 「こっちもビックリしたよ。リッカが階段転げ落ちるかと思った」

 駆け足で葉子ちゃんの隣に並び、音楽室へと向かう。
 後ろからバタバタと駆け上がってきた男子に追い越されながら、あたしたちも急ぐ。

 「……落ちれば良かったのに」

 そんな言葉が聞こえてきたのは、音楽室の扉に手をかけると同時で。
 しかも、始業を告げるチャイムが鳴り響く中だった。
 (え?)
 後ろを振り向くことが怖くて、そのまま何事もなかったかのように席に着く。
 (……今の、あたしのことだよね?)
 さっきの声は低く、小さなものだったけれど、それでも、彼の声にはよく耳を澄ましているから、聞き間違いをしたなんてありえない。
 
 案の定、あたしたちの後ろから音楽室に入ってきたのは、
 高宮和志。

 ―――――あたしの好きな人だった。
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