珈琲時間
そんな話をしながら、いざ講義が始まる。
前の席に座る二人は、暇そうにしながら、先生が黒板に向かう姿を見ている。

(……部活の後に、この授業って……地獄だなぁ)

こみ上げてくるあくびを噛み締めながら、俺は新藤たちの斜め前の席をチラリと見た。
そこに居るのは、去年隣のクラスだった、黒岩真秀。肩にかかるくらいの長さの髪を、暑さのためかアップにして、後ろ姿からは真剣に話を聞いているように見える。言わずともがな、
俺の想い人だ。
急に、俺が講習を受けることを決めたのは、部誌を出しに行ったときに、丁度彼女が講習の申込書を持って来たからだった。顧問が彼女の担任なので、部誌のチェックをしてもらっていたときにチラッとそれが見えて。

「岸田は受けないのか? 夏期講習」

彼女が去った後に問われた言葉に、即座にこう答えていた。
「英語だけでも、受けようかとは思ってます」
仁志が言っていたように、理系の俺が、文系の彼女と同じクラスになる確率はほぼゼロに等しい。だが夏期講習ならば、同じ教室には一緒に居ることが出来る。
……その、ささやかな願いを叶えるためだけに、俺はここに居る。

(だけど、本当に……眠い…………)
クーラーで心地よく冷えた部屋に、部活で疲れた体。そして、睡眠効果のある教師の語り。
これで、寝ないでいられる方がおかしい。
( ――― まぁ、少しくらいなら寝ても平気だろう)

英語も、実はそんなに苦手ではないのだ。最後の答え合わせのときに起きてれば……。
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