珈琲時間
「…………お、おいっ! 雅哉ってばっ」
コソコソっと、耳に誰かが呼ぶ声がして、肩を軽くトントンと叩かれる。

(誰だよ一体。こっちは眠いんだっつーの)
「雅哉っ、起きろって、次おまえの番……」

「岸田雅哉ーっ!! いい加減起きろーっ!」

新藤の慌てた声に被って、教室中に響き渡る先生の声がした。

「は、はいっ!! って……え?」

名前を呼ばれたことで、何がなんだかわからないまま立ち上がると、教室中の視線を感じた。
一番強い視線を送ってくれているのは、さっきまで黒板に向かっていた先生だ。

「岸田、せめて、自分の番が回ってくるまでには起きてろな。他のみんなもー、寝るのは勝手だが、答えあわせの時間だけは起きてろよー。せっかく金払って受けてんだから」

怒ってるわけではないが、初日から爆睡する奴がいるとは思わなかったらしい。苦笑を浮かべて、座りなさい、と許可が出た。
(ふぅ……びっくりしたー……って、おい)
今回はお咎めナシ、と安心して椅子に座りかけて、ハッとする。
(もしかしなくとも、今の失態、バッチリ見られてたよな??)
こんな形で顔を覚えられるなんて。そう思いながら、何気なく彼女の席の方に目をやると。
(うわーっ)
しっかりと目が合ってしまった。しかも、呆れているのか、目が細くなっている。
変な印象を与えたのではないかと思っても、後の祭りだ。
……妙に、やる気をなくして、プリントを見る振りをしながら俯く。

さっきまでの眠気はどこへ消え去ったのか。こうなったら講義が終わるまで不貞寝をしたいのに。
俯いたまま、机の上にうつぶせになって……俺は、なんだか無性に泣きたい気分に襲われたのだった。

●「橋の真ん中で」の2人の男の子の話。彼は彼で彼女のことが好きなのです。
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