珈琲時間
12/24 偶然を装った再会
 「うわー、何やってんの??」

 ……と、驚いたフリをしてみる。
 ここは近所からいくつか離れた場所にあるコンビニ。
 そこで、中学の同級生だった孝平がバイトをしていることは、夏休みの頃から知っていた。
 近所ではなく、わざわざちょっと離れた場所でバイトを始めた理由を知っていたあたしは、なるべくここには近寄らないようにしていたのだ。
 万が一にも、彼の邪魔をしないように。
 万が一にも、あたしが傷つかないように。

 「……おまえ、わざとだろ」

 主演女優賞も狙えるくらい『ここにあなたがいるなんて知りませんでした!』と驚く名演技をしたあたしをジロリと睨むと、孝平はちらりと店内を伺ってから、非常に低い声で唸った。

 「え? 何のこと?」
 とりあえずとぼけてみる。
 たぶん、効果ないだろうけれど。
 「昨日から、急に知り合いが来るんだよなぁ。糸川とか山根とか田口とか」

 しかも、第一声がおまえと一緒。
 『うわー、何やってんの??』って。

 「来るなら一緒にまとめて来いよ。何度も人の傷口開きやがって」

 口から飛び出た人物たちが、あたしにここで孝平がバイトをしていることを教えてくれた人物たちと一致していて、苦笑する。
 (あいつら、結局楽しんでるな)
 あたしが今日、ここに来ることも計算済なのだろう。
 踊らされているのかと思うと、少々悔しい気もするけれど、長い付き合いの奴らなので、仕方がないかとも思う。

 「やだなぁ。今日クリスマスでしょ? ケーキ買って来いって母上様から指令を出されたんだけどさ、普通、通常販売用に何個かケーキって作ってあるもんだと思ったら、案外予約のみとかってところが多くてどこにもなくて。駅まで行く途中だったんだけど、コンビニだったらあるかなぁと思って」
 半分本当で、半分嘘。
 クリスマスケーキを買ってきて欲しいと言われたのは本当だけど、ここに来る前にケーキを売っているお店はたくさんあった。
 ここに来る口実が欲しかったから、全部無視して歩いてきただけだ。
 そんなあたしに、孝平は可哀相なものを見るような目をして、一言こぼす。 

 「……クリスマスなのに、おつかいデスカ?」
 「…………傷口開いて、塩塗ってあげようか?」

 その言葉に反応して、つい口がすべる。
 しまったと思ったけれど、孝平はあからさまにがっかりを浮かべた顔をした。

 「傷があるってことは認識してんじゃねーか。ってか、なんで知ってるんだよみんな」

 (……傷口を開くためじゃなく、塞げたらと思って来たんだけどなぁ)
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