魔王と王女の物語
…キスをしている場面をばっちり見られたのにそれには触れずに、

駆け寄ってきてはベルルに両の掌を差し出してきたラスの額にコハクがでこぴんをする。



「いたっ」


「今のわざと?それとも嫉妬?」


「え?コー…何かしてた?」


「…」



元の小さな妖精の姿に戻って空中で腕組みをし、ホバリングしている状態のベルルがラスの指先を爪で引っ掻いた。


「触んないでよ。あたしに触っていいのはコハク様だけなんだから」


「チビ、大丈夫か?」


「うん、平気」


平気と言ったラスに対して、コハクはすぐに小さい血だまりができている人差し指を口に含むと舌で舐めながら、背の小さなラスに笑いかけた。


「気持ちいっか?」


「え、なんで?コー、ありがと。もう平気」


…相変らずかみ合わない会話の数々にベルルが眉を潜めた。



「コハク様?まさか…まだ手を出してないとか…?」


「うるせえな、今日まで我慢してたんだよ。チビも16になったし…これで何でもし放題ってわけだ」



相変らず自分の世界に入ってしまうと周りの雑音が聴こえなくなってしまうラスはベルルに夢中で、

とにかく掌の上に乗っけたいらしく、盛んに掌を差し出してくる。


「乗ってやれ」


「…後でもう1回ですよ」


「わかったわかった」


――ベルルが仕方なく掌に乗ってやると、

ラスの大きな瞳がさらに見開かれて口を大きく開けて喜んだ。



「妖精さんこんにちは!コーとお友達なの?」


「違うわよ、あたしはコハク様のかの…もごもごっ!」


「こいつは俺が使役してる黒妖精のベルル。今まで俺の身体を守ってもらってたってわけ」


小さな頃から好奇心旺盛だったが、最近はさらに“外”に対する興味が強くなり、


カイは城外から探検家や研究家を招いてはラスに世界の理を教えてやっていた。


でも、それも今日までだ。


「チビ、今日はお前の16歳のバースデーパーティーがあるんだろ?憧れのスノウ姫が来るらしいぜ」


「え?!王子様と結婚したプリンセスだよね?」


嬉しさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねた。
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