魔王と王女の物語
ローズマリーはそれだけ伝えて家の中へ戻って行った。


今までずっと想像だけで不安になっていた。

ローズマリーとコハクの間には何か確実に特別な絆のようなものがあるのを感じていて、それを聞きたい半面、聞きたくないとも思ったラスは、苦悩した。


「どうしよう…グラース、どうしたらいいと思う?」


「話すしかないと思う。お前が魔王をもう見限るというのだったら、私がゴールドストーン王国へ送って…」


「っ、やだ!見限ったりしないもん!」


心の奥底からの本音はやはり、コハクを欲している。

くしゃっと表情を泣き顔に歪めたラスの頭を撫でて立ち上がると、グラースはリロイたちが消えた方向へと歩き出した。


「私は外しておくから魔王と話を。…ほら、見てるぞ」


グラースがふっと笑ったので視線を追いかけると…


ひとつしかない小さな窓からは、コハクが腕を組んでじっと見つめてきていた。


「…コー…」


離れて行ってほしくない。

あの赤い瞳を…時々わからないことを言うけれど、心がふんわりしてくれる言葉を沢山贈ってくれる唇を…


これからも独占できるのは、私だけ。


――それはラスが完全に“恋”を自覚した瞬間だった。


胸をぎゅっと押さえて花畑にころんと寝転がると、慌てたコハクが家から飛び出て来てすぐに抱き起された。


「チビ!?どうした!?どっか痛いのか!?」


「…心臓が痛いの」


「ちょ、早く安静に…………あのベッドは…やだよな」


「……うん」


瞳を強く閉じて小さく身体を震わせているラスにどうしようもない愛情が沸いて、コハクはラスを膝に乗せてぎゅっと抱きしめると、耳元で囁いた。


「俺とローズマリーのこと…聞きたいか?」


「…やな気分になるんでしょ?」


「やな気分になると思う。けど、俺からしたらもう昔話位に遠い過去のことだ。…チビ、聴いてくれよ。頼む」


声が震えていた。


…怖いのはお互い様だ、と思った。


また泣きそうになってしまった。

そんな自分は可愛くもないしコハクを苦しませるだけだと思って、一生懸命笑顔を作って笑いかけた。


「うん」
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