魔王と王女の物語
「ラスと…両想いになっただと…!?」


コハクがラスを追って居なくなった後、宿屋の壁を拳で思いきり殴りつけて血を飛び散らせながらも、その痛みを感じることができないほどに…


リロイは激高していた。


「そんなはずない。そんな…」


ラスとの年月は、生まれた時から影に憑いていた魔王よりは短い。

だがラスを一目見た時から恋に落ちたあの感情は今でも覚えている。


「…怪我の手当てをします。手を…」


「ティアラ王女…僕に優しくしないで下さい。僕は最低な男だ。ラスを愛しているのに、あなたにあんなことを…」


――歯を食いしばって後悔に軋む胸。
血で滴る手で押さえながら吐き出すように言ったリロイを…ティアラは恨んでなどいなかった。


…望んだのだ。

自分がこうなることを少なくとも望んだのだから、後悔はしたくない。


「…魔王の城まではもうすぐです。それまでは…耐えて下さい」


「ティアラ王女…」


細いけれどたくましい腕にそっと触れた。


――その頃ラスは空を見上げて天気を気にしながら木陰を選んで歩いていた。


「ねえグラース、私ね、夢があるの」


突然そう切り出したラスは大きく頷き、雲の切れ間から見える太陽を指して、太陽のような笑顔でグラースに笑いかけた。


「コーと一緒にお日様の中を歩きたいの。影の中に居る時はお話はできたけど、手を繋いで歩いたことはないの」


「…そうか。そういえばずっと天気が悪いのはあいつが魔法で曇りにさせているのか?」


「多分そう。コーはそういうの自慢しないからわかりにくいけど、私と一緒に居てくれるために天候を操ってると思うの」


――なんて自分勝手な。

ラスのため、ではなく、ラスと一緒に居たいがために天候をも操ってしまう魔王の愛…いや、独占欲にグラースが噴き出した。


「どうして笑うの?私の夢を話したのにひどいっ」


「ふふ、すまない」


ラスがぽかぽかとグラースの胸を叩いていると、捜し回っていた魔王がその仲睦まじい光景に非難の声を上げた。


「こらそこ!俺の天使ちゃんに触んな!」


「触られてるのは私だ」


なんてかわいいラスの夢。
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