魔王と王女の物語
待ち受けていたリロイの表情は冴え冴えとしていて、ぞっとした。


不安になって顔を上げると…

コハクの顔からはさっきまで見せてくれていた笑みが消えていた。


「コー…」


「ちょっと降りてグラースとボインと一緒に端っこに居ろ」


「でもコー…どうするの?どうなるの!?」


ラスの声が反響する。

小さな叫びはより大きくなって…リロイの唇を震わせた。


だがコハクは悲痛な叫び声を上げたラスの頭の上にぽんと手を乗せると、腰に手をあてて息をついた。



「なんだよ、俺が負けるとでも思ってるのか?」


「違うけど…違うけど…!リロイとコーが本当に戦うなんて私…やだよ…リロイ、やめてよ…!」


「…ラス…僕はね、今日この日のためにずっと己を鍛えて、待っていたんだよ。君を影から解放するために。君を呪いから解き放つために」



――今までは、怒った表情など見せたことはなかったラスが…ありたっけの怒声を上げた。


「私が呪われたんじゃないの!コーが呪われてたんだよ!コーを解放してあげたいの!だからやめて!」


しゃらん、と鞘走りの音がした。

ラスの願いをリロイは聞き入れることなく、ただ…金の髪を揺らして一瞬俯いた。



「ごめんねラス。その我が儘は聴いてあげられないんだ。…僕は影に勝つつもりだけど、もし負けたら…僕が居なくなったこと、少しは悲しんでね」



…リロイとコハクは、まるで光と影のような存在だった。

2人共とても大切で、幾度となく諍いをしていたが、互いの力は認め合っているはずだったのに――


「チビ、もう無駄だ。…もし小僧を殺すことになったら…俺を恨んでもいい。俺はチビしか要らないんだ。お前とずっと一緒に居たいから…止めるなよ」


「コー…リロイ…!」


「ラス、こっちへ」


コハクがラスを腕から下ろし、ラスの小さな身体をグラースが受け取った。


今まで複雑な想いに揺られていたティアラは、リロイを死なせたくない。

ラスのために、コハクを死なせたくない。


だから、澄み渡った高い声で、聖歌を唄った。


――空気が清められてゆく。

力が、みなぎってくる。

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