魔王と王女の物語
コハクの身体から剣が生えた時――


ラスはもうこの戦いを止めることができないのだ、と覚悟した。


激しい火花が散り、リロイとコハクがつばぜり合いをしながら至近距離でにらみ合う。


だが白騎士として正攻法の戦いしか知らない若きリロイは、


長い生の中で、魔法だけではなく剣術にまで手を出して暇つぶしをしてきたコハクから長い脚で思いきり腹を蹴られると、後方に吹っ飛んだ。


「ぅ…っ」


「卑怯、と言いたいのか?お前さあ、そんなんでチビを守るとか言ってたのか?俺って魔法使いだぜ?早く立てよ。次行くぞー」


真っ黒い剣で肩を叩きつつ、ラスに手を振る魔王。

余裕がありすぎて、それが悔しくて…

リロイは手の甲で唇についた血を拭うと、グラースの隣で瞬きもできずに見守っているラスを見た。



「ラス…待ってて。君を必ず王国に連れて帰るから。カイ陛下とそう約束したんだ」


「リロイ…私が帰る時はコーと一緒だよ。リロイとも一緒だよ。みんなと一緒だよ!」


「そんなことにはならない。影はここで死ぬんだよ。僕の手によって!」



魔法剣が仮ではあるが、主の想いに応えて強く発光した。


コハクはこの戦いが始まってから魔法を使っていない。

使わずとも勝てると思っているのか、その余裕がまた癪に触り、鎧の音を響かせながらコハクの細い胴に向かって横凪ぎに一閃した。


「おっと!」


「コー!」


素早い一閃に後方に1歩下がってかろうじて避けたコハクのシャツが裂け、そこから白い肌に走る赤い線が見えた。


コハクはその赤い線に指で触れてみると…少量ではあるが、血が指を汚した。


「コー、大丈夫!?」


「んー、平気。チビ、後でぺろぺろしてくれよ」


「うん、わかった!」


矢継ぎ早にどんどん剣を繰り出してくるリロイの剣の型は洗練されていて、およそ戦闘向きではない。


この世界には魔物と人が共存している。

各国には聖石があるから、魔物に侵されることはない。


安寧とした世界。

その世界に警鐘を鳴らすための、世界征服宣言。


それを誰も知らない。

誰も――

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