魔女の悪戯
柚姫の部屋を出て、一人になったところで、レオは懐から鏡を取り出した。
風見家の家紋入りの金蒔絵の鏡。
鏡の表面も綺麗に磨かれていた。
鏡を覗き込むと、写っていたのは金髪に空色の瞳のレオの顔ではなく、
黒髪を高い位置で髷にし、黒がちな眼を持った男の顔。
少し日焼けして、レオやラウロのような美貌は持っていないが、男らしい整った顔だった。
──これが、タダスミか。
レオがじっと見ていると、鏡は一瞬にして写し出すものを変え、
絶世の美貌を持った魔女が現れた。
「こんにちは、騎士のレオナルドサマ。」
「…こちらこそ、はじめまして。
貴女は何故、私の名を?」
「私は魔女よ、何でも知っているし、世界中何でも見える。
…貴方とそのタダスミに、魔法をかけさせて貰ったわ。
入れ代わりの魔法をね。
だから、貴方はクリスティアからここに来たの、タダスミの身体にね。
それでね、私を愉しませて欲しいのよ。」
魔女が笑えば、レオも冷たく笑う。
「…そうですか。
随分と迷惑な魔女のお嬢さんだ。
早いところクリスティアにお返し頂きたい。」
「私を愉しませてくれたら、元に戻してあげるわ。」
「頼むだけでは、お返し下さらないか?」
「そうね、ただじゃ嫌。
せっかく騎士様がお侍になったのだもの。
これから愉しませてもらわなきゃね。」
「……マドマゼル、ならば存分にお楽しみあれ。
そして早く、クリスティアに。」
「ふふふ、やっぱりおつむの固いお侍より、紳士的な騎士様の方が、素敵。」
「貴女のような美しい方にお褒め頂き、光栄です。」
「ふふ。
それじゃあ、期待しているわね。」
「ええ、どうぞ。」
レオがそういうと、魔女の姿はぷつりと消えてしまい、元の鏡に戻った。