魔女の悪戯
守槻との国境に、柚姫を迎え入れる一行が待っていた。
忠純はある程度の距離で立ち止まり、行列も続いて止まっていく。
目で指示を出し、柚姫を乗せた駕籠と、嫁入り道具を担いだ足軽だけが歩みを止めずに進んでいく。
駕籠が忠純の横を通り過ぎる時、小さいがたしかに聞こえた。
柚姫の、鈴を転がしたような声が。
「忠純。
そなたといれて、楽しかった。
そなたが守役で、本当によかった。
大好きじゃ…」
聞き取れるギリギリの声。
しかし、たしかに届いた。
思わず溢れそうになる涙を必死で止め、通り過ぎてしまう前に早口で告げた。
「私も、楽しゅうございました。
おさらばにございます!」
柚姫の乗った駕籠は、迎えの一行の前で降ろされ、足軽たちは駕籠から離れていった。
その駕籠を、守槻の迎えの一行が担ぎなおす。
そして、忠純最後の勤めの時。
「お頼み申し上げる!!!」
良く通る声で言い、見えなくなるまで柚姫を見送った。
──私も、大好きにございました。
姫様、おさらば…。