spiral
「だって、勝手に……流れてき、て」
ハンカチを取り出そうとすると、その手を止められた。
「凌、平さん」
そのまま手首をつかんで体を反転させられる。俯く目の前に、凌平さんの胸元がある。
「どうせなら、ここで泣いてよ。マナが泣く時は、ここだけにしてほしいな」
壊れ物を扱うかのように、ソフトに抱きしめてくれる。
ふんわりと鼻に入ってくる柑橘系の香り。凌平さんの匂い。
「他の男のために泣いてるんだったら、よそ行ってよっていうけどさ」
その言葉に顔が緩んだ。泣いてるはずなのに、笑っちゃうよ。
胸元に顔をくっつけると、凌平さんの心音が聴こえる。思ったよりも速い。
(凌平さんみたいな大人でも、ドキドキしたりするのかな)
この速めの心音が、自分がそばにいるからだなんて思えない。
(けど……そうだったらって、思ったりしたら……ダメなのかな)
そう思った瞬間、どこかぼんやりしてる自分の中。
かすかだけど、輪郭がみえつつある感情に気づき、目を凝らす。
「マナの髪、いい匂いがする」
密着。静かな教室で二人きり。あたしのことを大事にしてくれる人と、くっついてる。
(雰囲気に流されて、じゃないよね。この感情は)
指先が髪を梳くのを感じた。それも心地いい。この人のそばって、とても心地いいや。
「マナって、そんなに華やかじゃないし。モデル並みに可愛いわけじゃないし」
いきなり言いだしたそれは、一応女の子なんだけどと苦笑したくなる内容。
「あ、やっと顔上げてくれた」
「だって、ひどいなぁって思って」
背の高い凌平さん。顔を思いきり上げないと、ちゃんと顔が見られない。
「その先があるんだって」と、同じように苦笑い。そして、片手で頬を包み込む。
「マナってね、その辺に咲いてる花なんだよね」
「……ほら、さりげなく失礼です。女の子なのに」
「だから、続き聞いててってば」
いいながら、頬をムニムニとつまんで引っ張る。とても痛い。
「わふぁりまひた」
涙目でそう言ったら、機嫌よさそうに微笑む。
「ちっとも高嶺の花じゃない。簡単に摘める。そう思ってたんだ、俺」
まあバラとかになれる顔じゃないし。うん。いいもん。わかってるし。
「なのにさ、ちっとも摘めない。頑固だし、どうでもいいとこ素直だし」
「……あの、やっぱり褒めてる内容じゃないような」
口出しせずにいられない。聞いてるだけで、どんどん切なくなるんだもん。
「もう、黙って」
囁きが聞こえたと同時に、唇を掠めた柔らかな感触があった。