spiral
「そのまま黙っててね」
黙る他なかった。ドキドキしすぎて、言葉が出てこない。「何するんですか」も、言えなくなった。
「ふっ。真っ赤だね」
(そうしたの自分じゃないですかって言いたいのに)
恨めしそうに見上げると、あたしの顔を隠すかのように抱きしめた。
「そばに誰かにいてほしいくせに、そばにいたらいたで甘えてこないし。距離感ばっかだし。どうしたら笑うんだろうって、そればっかり考えるようになった」
そんな風に自分を見ている人がいたことが意外だった。
「知ってる?マナが笑うとね、ドキドキするよりも心があったかくなるってこと。っていっても、自分の笑顔見て癒される人間なんかいないか」
自分でいいながら、自分に突っ込んでる凌平さん。
「豪華な花でもない。可憐でもない。でもね、見てるだけでいいんだ。風に揺らされて気持ちよさそうにしてるのを、ずっと飽きずに見ていられる。そんな風にマナのこと、ただ見ていたいんだ」
胸元のシャツをギュッと握りながら、勇気を出して聞いてみる。
「コスモスのこと、そんなにずっと……見ていられるんですか?」
聞きたいのはそんなことじゃないのに、すこし遠回りになった。上手く言葉が浮かばない。
「……うん。なんてことない花だからかな。みてて疲れないし、一緒に雨に濡れるのも悪くないやって思った時もあったくらい」
雨に濡れる、か。なんだかあの花のそばで佇んでいる凌平さんが見えそう。
「マナがたくさんのこと抱えてて、一人で悩んで。やっとナオトやオヤジさんと家族になれて。すこしずつ前に進んでいくマナを、一番そばでみていたい。雨に濡れるのも、日光浴するのも。全部一緒にしたいって」
この人の言葉が胸に自然と入り込むのって、きっとあたし自身が好意的に思ってるからなんだ。
この教室に入って、ちょっとずつだけど自分の中に芽吹きだしていた気持ちに気づけた。
形がなかったものに、触れることが出来た。
(そっか。ただ、いいなって思ってただけじゃなかったんだ。いつのまにか変わってたんだ)
初めての恋。その相手が大河内凌平さんという、自分よりはるかに大人の人。
「でも」
気になる。だってあたし、まだ……。
「あたし、凌平さんより、たくさん……下だし」
幼すぎるんだ。知らないことばかりなのも余計に、自分を幼くしている。
それが釣り合わない気がして、正直たまらない気持ちになる。