spiral

 少し寒い日。雪が降ったら嬉しいなと思える日。

「今日は早く帰ってきたらいいな」

水炊きの用意をし、あたしはみんなの帰りを待っていた。

冬になり、あの学園祭からもうすぐで三ヶ月になる。忘れてる人も結構多い。

時々は変な目で見られるけど、気にするほどのことじゃなくなった。

「鶏のぶつ切り、すっごく安かったもんね」

鍋の材料の確認をして、あたしは一人でワクワクしながら帰りを待ってた。

 今日、お兄ちゃんは家に戻ってる。でも夕食はこっちで食べるって言ってた。

「すこし冷えてきたかな。ヒーター点けた方がいいのかな」

一人で部屋の中を右往左往。なんせ落ち着かない。だって今日は嬉しい日だから。

「でも変かな。自分の誕生日に本人が浮かれてるなんて」

そういうことすらわからない。みんなは自分の誕生日ってワクワクしたりするのかな。

今まで誕生日を祝ってもらったことがない。だから、あたしにとって大事な人たちと過ごす、初めての誕生日。

「仕方ないって、許してくれるよね」

珍しく、自分を許してあげたくなった。嬉しい。一人じゃない誕生日が。

4時になり、5時を過ぎても帰ってこない。用事でも入ったのかなと、メールを打つ。

『予定に変更あったら教えてね』

夕食に何を用意してるか内緒だから、それだけをお兄ちゃんへと送信する。

1時間経過しても、返信がない。もう6時になるところだ。

「どうしたのかな」

携帯を手に、番号を探す。

「……あ、もしもし。シン?お兄ちゃんがまだ帰ってこないの」

シンにそう聞けば、「あのねマナ」といつものシンじゃない声がする。

「予定変わったのかな。連絡欲しいなって、さっきお兄ちゃんにメールしておいたんだけど」

そう話せば、「知ってる」とシンがいう。

「そっか。返信がないから、もうすぐ帰ってくるのかなって思ってて」

あたしだけが浮かれてた。電話の向こうのシンが、いつもとは違う様子になってたことに気づけないほどに。

「寒いから、今日。あったかい夕食用意しておくね。早く帰ってきてねって、お兄ちゃんに話してくれる?」

浮かれたまま、気持ちのままにシンに話しかけた時、シンがこういった。

「無理よ」って。

聞き間違いかなって思って、「え?今、なんて?」と聞き返す。

「……帰れないの」

やや間を置いて、シンが呟く。
< 183 / 221 >

この作品をシェア

pagetop