spiral

「バスが来ないとか?」

「違うわ」

「あ、じゃあ、その……ママの具合が悪くて、家に残らされてるとか」

「違う」

今度は少し大きな声で返ってきた。

「じゃあ、どうし」

たの、と、言いかけたところで、「あたしじゃダメなの」とシンが泣いた。

初めて聞いた弱気な声。悲痛な叫び。

「マナ……。どうして、あたしじゃないの?ねぇ」

言葉の意味が分からない。何があったというの?

「シン。今どこ?あたし、すぐに行くから」

そうゆっくりと話しかけると、こんな言葉が返ってきた。

「ナオトとマナが出会った場所」

そう言っただけで、シンのすすり泣く声がプツンと途絶えた。

お兄ちゃんが一緒にいるって思っていいの?場所は、

「あたしとお兄ちゃんの出会いの場所?…………って、あそこ?」

どうしてそこなのかわかんないや。でも行ってみなきゃ答えはわからない。

「もしもし、凌平さん」

仕事が終わるだろう時間帯。いつもは凌平さんからの電話を待つあたし。

「マナから電話くれるなんて、ニヤけてもいい?」

と言われるほどに、あたしからはかけない。照れくさい感情に負けちゃうんだ。

「あのね、急なんだけど、一緒に行ってほしい場所があるの」

準備をしながら肩とあごに携帯を挟んでの通話。

「珍しいね。何かあった?」

「あったというか、あったみたいというか」

携帯と鍵。とにかく最低これだけでいい。あとはガス栓の確認と、あとは……っと。

しっかり確認をして、凌平さんにある場所を伝える。

「そこにお兄ちゃんがいるって、シンが」

「そこって前に話してくれた場所だろ?確かそこはマナが」

凌平さんが言おうとしていることはわかる。あたしもじんわりと嫌な予感しか増えていかないんだもの。

「だったら、俺、すこし遅れるよ。万が一の準備しとく」

「万が一」

その言葉を繰り返しただけで、胸の中が不安でいっぱいになる。

「大丈夫。万が一は起きないよ。今回は第六感が反応してないから」

そういってすこし気を楽にさせようとする言葉をくれた。

「凌平さんの第六感、信じてますね。それじゃ、先に行ってます」

「了解。あとでね。あと、ナオトの気持ち、ちゃんと聞いて、それから判断するんだよ」

この人はいろんなこと、わかりすぎる。勝てないな。

「うん。がんばる」

鍵を閉め、大きく息を吐いて。「よし、行こう」階段を勢いよく下りていく。

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