spiral

「ううん、そんなことない。ほら……元気でしょ?もう」

笑って言わなきゃって思うのに、声が震えた。

凌平さんを育てたお母さん。きっと凌平さんはお母さんのことが大好きだった。

「うん。みてて、嬉しいよ」

いろんなことをして凌平さんを育てたお母さんの子育ては、こんな形で凌平さんを優しい人へと育てた。

「よかった」

無意識でこぼれてしまった言葉。それに驚き、凌平さんが「何が?」と戸惑いの声を上げた。

また口から勝手にやってしまった。一度口からこぼれたものは、どうすることも出来ない。

「あの、ね」

言うしかない。今、感じたままのことを。

「凌平さんのお母さんが、その……凌平さんを産んでくれて。それと、あの……こんなに優しく育ててくれたから」

寂しくならないようにってそうしたのかもしれない。いろんな思い出を増やそうと。

それはちゃんと凌平さんにも伝わっていて、別離が哀しいものになっても、凌平さんはお母さんを好きなままだ。

「……よか……った、って」

凌平さんのお母さんとの思い出をあたしにわけてくれたことも嬉しかった。

あたしが凌平さんの特別でいいのかなって、どこかで抑えてた心。

それを、いいよって背中を押してもいいかと考えた。

「嬉しい、です」

ダメだ。勝手に涙が出ちゃう。

「……バカ」

笑いながら泣くあたしをみて、いつものように囁いた。

「はい、バカです」

凌平さんも泣いてて、二人で「なにやってんだろうね」なんて言い合った。

うん。いいんだ。あたしは、この人がいい。この人じゃなきゃ嫌かもしれない。

互いの過去を知って、それでもなお、そばにいたいと思える人。

それが、きっと……恋。それが恋愛につながって、変わっていけるんだと思う。

今までお互いに哀しかったことがあった分、一日ずつでも嬉しいことが増えていけばいいな。

「あ、気づいたら全部食べちゃってました」

そう土鍋を見せると、さっきのように笑ってこう言った。

「よかった」って。

(やっと、恋を知ったよ)

心の奥、ママに話しかける。

すこしずつでいいから、ママが知っててあたしが知らなかったこと。知りたいな。

(知ったら、ママの思いを理解できるようになれるかな)

そう願った。

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