俺はその時、どう行動するか。
静かな店内で、今まで聞こえなかった小さなボリュームのジャズが、はっきり聞こえる。





しばらくの沈黙。


綾音は固まっていた。






「あ……あの…」



戸惑う綾音。


俺は言ってしまってから、自分の言ったことの大きさを確認していた。




「だけど本当にそんなの今さらだよな?」


俺は綾音が何か言う前に、無理やりそう言って笑った。


「え?」


「ほんと俺たち酔いすぎだな」


「………」


「綾音も忘れて?俺も綾音の言葉は聞かなかったことにするからさ」





そして俺はイツキさんを呼ぶと勘定をお願いした。




「もうロッジ戻ろう。綾音も今日は疲れただろ?」




俺は笑顔で綾音にもコートを渡す。




「綾音」


「……え?」




ぽーっとしていた綾音は、俺の声にハッとしてようやく顔を上げる。




「…変なこと言ってごめんな?」


「い、いえ…私こそ」


「お互いに忘れような」


「…………」






そして、俺と綾音はイツキさんに別れを告げバーを出た。


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