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「……柏原がまた俺様執事になっちゃった」
「従順な執事が作りものなのですよ。ご了承ください」
俺様執事様の柏原は、とことん酷い。
思い出すだけで泣けてくるわよ。全然可愛くないんだから……
その美しい顔を傾けると艶やかな黒髪がサラリと揺れて、細められた瞳を隠す。
「それに『紫音茉莉果』はもう終わりでよろしいのではないですか? 育ててくれた両親を嫌いと罵り、大人しく誘拐されてきたではないですか。その体、どう扱われようと文句の言える立場じゃない」
「そうだけど……」
こんなのあんまりだわ……
綺麗な長い指が私の頬に軽く触れる。弾力を確かめる様に、指先だけがツンと悪戯に頬を弄ぶ。
「そのタイを解く前に、ここでのルールを教えましょう」
冷たい指先は、頬から唇に移る。それに飽きると、縛られたままの手を労るように優しく撫でるのだ。
「貴女は何者でもない。決定権は俺にある。従わないのなら追い出すことはあっても……」
柏原は、新しい発見をした子供のように瞳を輝かせた。
ゆっくりと指先でタイの先を引く。
すると、どんなに振りほどこうとしても絶対ほどけなかったタイが魔法のようにハラリと落ちた。
「逃げ出す事は許さない」