解ける螺旋
関係ない、と言われたから、私もそれ以上は何も言わずに黙り込んだ。
だけど俯いた私に、健太郎の方から声を掛けて来る。


「ごめん。関係ないって、嘘。
……別にお前が誰を好きになろうが、何をしようが俺には関係ないはずなのに。
なんでかな。ちょっとムカつく様な気が、する」


健太郎の小さな声に、思わず顔を上げた。
夕日に照らされて少しだけ赤く見える頬が何だかとても新鮮で、私はついその場に立ち止まってしまった。


――なんだろう、このくすぐったい感覚は。


健太郎が言った通り、私も健太郎も誰と何をしようが全く関係がない。
責められる筋合いもないし、責める筋合いもない。
なのに何故か、私と健太郎の間にいつもと違う空気が舞い込んだ様な気分になって、私はますますわからなくなる。


樫本先生とあんなキスをしておいて全然拒めなかったくせに、健太郎の言葉が嬉しいと思う私はなんなんだろう。


「……奈月?」


一歩先に進んだ健太郎が、私を振り返った。
立ち止まってくれた事が嬉しいと思う。
そしてどうしてそう思うのか、自分でも説明が出来ないまま。


「……ごめんなさい」


何に対してかもわからないまま、小さな声で謝った。
健太郎は何か言いたそうに私を見下ろして、だけどすぐにそっぽを向く。


「俺もごめん。
なんだかよくわかんない事言った。全部忘れて」

「……うん」


本当は嬉しかったから忘れたくないって思ったのに、樫本先生を拒めなかった私がそんな事を言えないとわかっていたから、健太郎の言葉に頷いた。
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