解ける螺旋
なんでかな。どうしようもなくせつない。


樫本先生にされた事は強引で無理矢理で、私の意志でも願いでもなかったはずなのに、私は飲まれるだけでされるがままになっていた。
私が拒めば良かっただけの事。
だけど私の身体は自分の意志で動かなかった。
それが事実なのに、そう思う自分を認められない。


私は自分の気持ちを制御された様な感覚に陥って、もっともっと樫本先生が怖くなる。
あの読めない態度に翻弄されて、感情を弄ってコントロールされた。
先生を拒まなかった自分を説明する為に、そんなとんでもない事を考えるしか出来ないでいる。


自分の事なのに、私の心がどこにあるのかわからない。
先生を受け入れた私は誰なんだろう。
健太郎の言葉を嬉しいって思って、忘れてと言われて切なくなる私は誰なんだろう。


会話が途切れたまま、黙って隣りを歩く健太郎を見上げた。
そこに何か答えがないかを探して。


いつもこうして隣にいた。


ただの幼なじみだし腐れ縁ってだけだけど、それでもお互い大人になって、大学院まで一緒に通って一緒に研究を続けている。
いろいろ喧嘩もするけれど、やっぱり健太郎の事大好きだし大切だって思う。
そして多分健太郎も、私と同じ気持ちを返してくれていると思う。


――それなのに恋にならなかったのはどうしてだろう。


そんな事を、ふと考えた。
< 104 / 301 >

この作品をシェア

pagetop