解ける螺旋



「……珍しいね。今日は一人?」


テーブルの上の手をグッと握り締めた時声を掛けられて、私は思わずビクッと身体を震わせた。


少し昼食の時間を過ぎた学食。
ほとんど手付かずだったランチのトレーを前にした私の正面に、樫本先生が持っていた参考書をテーブルに置きながら座った。
ずっと考えていた人のその姿を見て、私は息を飲んで樫本先生の仕草を見守ってしまう。


「遅いランチだね。全然進んでないみたいだけど。
……今日は結城君はどうしたの?」


当たり前の様に健太郎の名を口にする先生に、どうしようもなく憤りを感じた。


どうしてそれを先生が聞くの?
知ってるくせに。わかってるくせに。


だけどそう口にしてしまうのは悔しくて、私は視線を上げないままで静かに答えた。


「失恋した相手と向き合ってランチ出来るほど、私もお目出度い人間じゃないんです」

「……失恋?」


樫本先生が微かに眉を寄せた。
その表情に確かな不機嫌を感じて、私は少しだけ怯む。
感情が読めない、とは思っていたけれど、今までも今日も、負の感情だけは強く感じられる。
そしてそんな先生だから、意味不明な人なのに、人間らしいとすら思う。


「君、結城君が好きだったの? また?」

「は? ……また、って、一体何を……」


機嫌の悪い先生を怖いと思いながら、言われた言葉の不可解さに問い返した。


「答えろ。今度はいつから好きだったの?
なんで失恋したって言うの」


それなのに先生はそんな事を聞く。
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