解ける螺旋
またとか、今度とか。
何を言ってるのかさっぱりわからない。


だけどそれ以上に。


「……なんで樫本先生がそんな事言うんですか……!?」


堪え切れない感情の濁流に飲み込まれて、私は顔を上げると大声を出していた。
人気がない、とは言え、大学の学食には全く人がいなかった訳じゃない。
私が放った怒声に、あちこちからまばらな視線を感じる。
だけど私は言葉を抑えきれなかった。


「誰のせいだと……!
樫本先生があんな事するからいけないんじゃないですか……!!
なんで……。なんで私にあんな事したんですか!?
健太郎がいたの、知ってたんでしょう?
知っててなんであんな事!!」

「……ああ、俺のせい?
心外だな。君は拒まなかったし、俺にはむしろ積極的に受け入れてる様に見えたけどね」

「……っ!!」


冷たく低い声で言われて、私は黙り込んだ。


自分でもわかってた。
それを先生ならわかってて当然なのに、改めて突き付けられたら混乱で泣きたくなった。


「本当に嫌だったなら、結城君の事が好きだと言うなら、一言言えばそれで良かった。
少し手を動かして、俺の身体を突き離せばそれで良かった。
……けど違ったよね。
君は俺の背中に手を回して、俺に応えた。
それがわからない位子供じゃないと思うんだけど」

「言わないで下さい!
……あんな状態で、逃げられる訳ないじゃないですか!」


テーブルを叩いて樫本先生の言葉を制して、私はテーブルに突っ伏した。


全然反論になっていないのはわかってる。
だけど頭の中は混乱していて、自分でもどうにもならない。
堪え切れずに涙が零れる。
肩を震わせる私の前で、樫本先生は黙り込んだ。
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