解ける螺旋

 偽物の心

私が殺される記憶。
私はそれを夢で見て来た。まるで映画の様に。
そして客観的に見ている健太郎には、それが現実の記憶として残っている。


ありえない。何度も殺されるなんて、普通に考えてもありえない。
そんな事が記憶にある、実際に起きた出来事なんだと言われたら、私は一体何度殺されて何度死んでると言うのか。
それこそ今ここにいる私が何だと言うのか。


「じょ、冗談止めてよ。……怖過ぎる。けど……」


私も夢で見ると言いかけて、この間の夢を思い出した。
あれが初めてだったけど、あの夢に健太郎以外の知ってる人が現れた。


私だけが知ってる人。
だけど。
私は口に出すのを躊躇った。


「けど、気になる? 当たり前か。
奈月に記憶じゃなく夢って形で表れてるなら、もしかしたら内容を覚えてないかもしれないけど」


健太郎が意味ありげに言葉を切って。
もう一度私を見てから、はっきりと言った。


「最近やっと鮮明になってきたんだ。
最初は性質の悪い妄想だと思ったんだけど、最近やたらと浮かんで来るから気になって。
奈月。俺の『記憶』の中で、奈月はいつもお兄ちゃんって呼び掛けて近付いて行く。
そして俺が助け出すか、目の前で殺される。
……お兄ちゃんって誰だ? 当たり前だけど、奈月は一人っ子だ」

「あ……」

「どの記憶を辿っても、奈月がお兄ちゃんって呼ぶ人間を、俺は一人しか知らない。
あの誘拐事件でお前を助けたっていう男。
奈月以外の人間は、その存在すら信じてない。
だけど俺の『記憶』の中で、奈月は嬉しそうに駆け寄って行くんだ。
……樫本先生に」


表情を強張らせて、健太郎がそう言った。
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