解ける螺旋
改めて見た綺麗で優しい笑顔を、私は天使みたいだって思った。
そして、フッと脳裏に過った既視感。


――まさか。


ありえない、と思いながら、私は彼に見入ってしまった。
私の周りの空気だけが一気に重力を増したみたいに、その場から動けなくなるような感覚。
動けずにいる私を気にも留めず、にっこりと笑いながら近付いて来た彼は、健太郎に手を差し伸べながら頷いた。


「ご丁寧にどうも。
僕は樫本愁夜(かしもとしゅうや)
今日からここでお世話になる助手です。
お二人の事は教授からも聞いてますよ。
エヴェレットの多世界解釈の研究をされてるとか。
僕も少し前に割と嵌った理論なんで、少しは協力出来るかもしれません」


淀みなくスラスラと語る樫本先生は落ち着いた男の人。
健太郎も同年代と思って見ればだいぶ落ち着いてる方だと思うけど、この人からは大人の男の渋みも感じる。


少しだけ低い、心に響く声。
明るい穏やかな口調で話しているけれど、それすらも違和感を感じる。
優しげだけど、何故か雰囲気に棘がある。


笑うと少し幼く見えるのに、綺麗な整った顔は感情が読めずに冷たさすら感じる。
切れ長の目には鋭さまで感じられるのに、笑っていると目尻が下がる。
見た目だけではどういう人なのかわからない、ミステリアスでアンバランスなオーラ。


そう思うのは、彼を目にした途端、私が思い出した『あの人』が重なったせいなのか。
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