解ける螺旋
私の身を襲ったあの誘拐事件は、そんな些細な健太郎との喧嘩も要素の一つになる。
ああやって売り言葉に買い言葉で健太郎の家を出なければ。


普段だったらお母さんが迎えに来るか、家政婦さんが夕食を作りに来る前に迎えに来てくれたし、一人で歩いて帰るなんて事がなかったから。


後になって、健太郎は涙を浮かべながら私に謝ってくれた。
俺のせいだ、ごめん、と何度も何度も。
健太郎のせいじゃないのに。
誰も健太郎を責めたりしていないのに。


だけどあの後、あの誘拐事件は本当は健太郎を狙ったものだったんじゃないかとも憶測された事がある。
なんせ犯人が要求した身代金は巨額で、一介の学者でしかない私の両親に要求したって無理がある。
しかも要求が届けられた時、私の両親は健太郎の家にいた。


私が誘拐された場所が、健太郎の家を出て直ぐの場所だった事を踏まえても、私が結城財閥の子供だと間違われた、そう考えた方が、誰の目にも納得がいくのは確かだったから。


結局私は身代金の受渡し前に救出されて、両親の元に帰る事が出来た。
それ以降犯人からの接触もなく、誘拐事件の犯人はまだ捕まっていない。


私が怖い思いをしたのは確かだけど、健太郎はあれからずっと、私があんな目に遭ったのは自分のせいだと思っている事を私は知ってる。
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