解ける螺旋

あの世界で俺は、過去と未来のどっちに行きたいかと、奈月に聞かれた事がある。


そう。
奈月と出会った物理学研究室。
多世界解釈の成立に、教授は時空転移が不可欠だと言った。


科学を研究する教授のくせに、夢がある、とタイムマシンについて話していた教授と奈月。


『もしもタイムマシンがあったなら、先生は過去と未来どっちに行きたいですか？』


過去、と答えた俺に、教授は夢がないと苦笑した。
今の俺なら、未来と答えられるかもしれない。
もう過去を変える必要はないから。


今この瞬間の俺の判断が、幸せな未来に繋がるのか、知りたいのはそれだけだ。


だけどそれはタイムマシンなんか使ってわざわざ見に行かなくても、このまま彼女と過ごしていれば必ず俺が到達する未来だから。


この判断の結果を知る事が出来る時が来るまで、俺は楽しみに待っていようと思う。


彼女が笑ってくれるなら。
ずっと俺の傍にいてくれるなら。





――もうこの世に、タイムマシンは必要ない。