解ける螺旋
何も足音を忍ばせて近付く意味はないけれど。
この静寂の中で、樫本先生が自分の研究に集中しているなら、明るく声を掛けるのも邪魔するだけかと思った。


だからそっと覗き込んだ。


案の定、自分のデスクでパソコンに向かう先生の背中は、私の気配にすら気付かない位集中している。
だけど、ちょっと失敗だった。
あんまり静かに近付き過ぎたせいで、これじゃ声を掛けるタイミングが掴めない。


どうしよう、と少しだけ迷って、立ち位置を変えてみた時。
先生が真剣に見つめているパソコンの画面がチラッと見えた。
その画面に一瞬だけあれ? と思って、つい身を乗り出して凝視してしまう。


まるで何かの緊急連絡網みたいなエクセルファイル。
一番上の囲いから分岐点を二つに分かれて、そしてその後にいくつも枝分かれして行く図。
まさに研究室の連絡網なのかとも思ったけど、なんでそんな真剣に見ているのか理由がわからない。


それによく目を凝らすと、どうやら普通の連絡網とは違う。
連絡網なら幾つかの分岐点の後はただそのまま最終地点に伸びるだけだけど、それは更にそこからも分岐して、また同じ地点に戻ったりもしてる。


つまり、フローチャートだ、とわかった。
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