主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹の部屋だと他の妖も勝手に出入りしてしまうため、息吹は主さまの寝室に寝かされていた。


「主しゃま…熱い…」


「…ちょっと待ってろ、着替えを…」


そこまで言いかけて、一体誰が着替えさせるのかはたと考えて、ふうふうと苦しそうに息を吐く息吹を動かすのは可哀そうだ。


だから仕方なく…本当に仕方なく、息吹のの箪笥から浅葱色の浴衣を引っ張り出すと寝室に戻り、上体を起こしてやった。


「き…着替えさせてやる。あ、あ、安心しろ、見たりしない」


「主しゃま…」


口が回らずに小さかった頃のように名を呼ぶ息吹に、限界まで顔が赤くなった主さまは、ゆっくり帯を外すと脱がせてやって、汗で光る身体に…釘づけになった。


「み、見てないぞ」


大嘘をついて、絞った布で身体を拭いてやろうとしたが手は震えて狙いが定まらず、自分はこんなに純情だったか?と自身に問いかけた。


“是”と答えた自分の心に大きく息をつきつつ邪な想いをなんとか封じて背中や首などを拭いてやり、てきぱきと浴衣を着せてやると寝かせてやって床を占領された主さまは、また考えてしまった。


「…俺はどこに寝ればいいんだ?」


「…ん…、一緒…ここ…一緒…」


「!い、息吹…起きて…」


夢現にうっすら瞳を開けた息吹が膝の上に乗せていた手を弱々しく握ってきた。

いつから起きていたのか絶句してしまった主さまの人差し指をきゅっと握った息吹は子供返りしたかのように身を乗り出して、膝に頭を乗っけてきた。


「絶対明日までに熱下げるから…だから置いて行かないでね。お願い…」


「わ、わかった。わかったからちゃんと寝てくれ」


「ん…」


布団に寝かしつけて、頬杖をつきながら掛け布団の上から優しく胸を叩いてやっている間にまた寝入ってしまい、外から山姫の声が聴こえた。


「主さま、そろそろ百鬼夜行の時間ですよ」


「わかった。息吹を頼む」


雪男と山姫を留守役にして百鬼夜行を率いて空を駆けあがり、隣を行く覚が話しかけてきた。


「“息吹と寝たい”」


「!」


覚は心を覗く。

主さまは慌てて覚の口を手で封じた。
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