主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
高千穂の鬼八――

かつて古代の時代、粗暴と暴力を極めた悪鬼で、

鵜目姫という美しい姫に懸想し、攫い、無理矢理妻にして、三毛入野命(みけぬのみこと)に倒されて、


その後、主さまの血筋の者が鬼八を封じて、代々100年に1度、封印を施してきた。


「息吹、それは本当か。夢で見たんだな?」


「うん、“今度こそ今生で結ばれよう”って…。私のこと…生まれ変わりだと思ってるのかな」


――息吹はからからと笑ったが晴明と主さまは顔を見合わせて厳しい顔つきになって、そんな2人に不安を覚えた息吹は晴明の袖を何度も引っ張った。


「晴明様…夢ですよね?ただの夢…」


「八卦も良くないし、星回りも良くない。鬼八は何度も蘇るために身体を切り刻んで、首塚、胴塚、手足塚に分けて封じた。…十六夜、私も高千穂へ行くぞ」


「…わかった。息吹、お前は俺から離れるな」


「は、はい。晴明様…主さま…なんだか怖くなってきました…」


不安がる息吹の頭を撫でて、顔を上げさせた晴明は…極上の笑みを浮かべていた。


「いやなに心配することはないよ。父様は少々遅れてから高千穂へ行くが、その間は主さまか雪男が守ってくれるだろう。…将来性を鑑みれば息吹の婿は雪男でも悪くはないねえ」


「え?今聴こえなかった。なんて言ったんですか?」


「……」


息吹が聞き逃した後半の言葉をしっかりと聞いていた主さまはいらいらしながら晴明を睨み、晴明はさっと腰を上げて外に止めてある牛車へと向かった。


「合流は少々遅れるが、合流すれば父様がしっかり守ってあげるからね。心配するのではないよ」


「はいっ、心配なんかしてません」


全幅の信頼。

完全に嫉妬した主さまは牛車に乗って去ってゆく晴明を見送っている息吹の腕を掴んだ。


「?主さま?」


「お前…俺を信用してないのか?」


「え…、どうして?」


「お前は俺の食い物だ。鬼八にも誰にもやらん。必ず俺の傍に居ろ。お前に触れていいのは、俺だけだ」


「っ、ぬ、主さま…」


――激しい独占欲に目が眩む。


主さまはいつも胸をざわざわさせる名人だ。


息吹は、こくんと頷いた。
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