主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
いつもより早く妖たちが集結し始めて、今回の遠征には妖たちが多く集まった。

主さまに真実の名を渡し、百鬼夜行に加ることができれば普段空を飛べない妖も自由に空を渡ることができる。

先頭をゆく主さまについて行けば、怖いものなどなにひとつない。


最強の悪鬼鬼八の100年に1度の再封印に毎回ついて行った妖も多く、息吹は空から突然現れた大きな八咫烏の前で目を真ん丸にさせていた。


「私…鴉さんに乗るの?」


「ただの鴉じゃない。古来より道を示してくれる3本脚の鴉だ。お前はそれに乗れ」


「え…でも怖いよ主さま…一緒に乗ろうよ」


――もちろん空を飛んだことのない息吹が不安がり、うるうるした瞳で見られてしまって、

周囲に居た妖たちがみんなにやにやしていて一喝したかったのだが、好々爺姿のぬらりひょんが提案をしてきた。


「先頭で乗ればよかろう?慣れたら1人で乗らせればいい。お嬢さんが不安がっとるだろうが」


「…だが…」


「先を急ぐんだろう?八咫烏は速いぞ、半日もかからず高千穂に着ける。早う済ませよう」


腕を組んで息吹の前に立ちながら代替案を考えている間に、雪男が束ねていた息吹の髪を引っ張った。


「俺が一緒に乗ってやろうか?」


「えっ、いいの?雪ちゃんありがとう!心細かったの。すっごく嬉しい」


ふわっと笑った息吹が雪男の袖をしっかりと握った。

冷やかす声があたりから飛び交い、八咫烏に乗り込むと暴れもせずに何度か翼を動かしてふわりと浮いた。


「きゃ、きゃっ!」


「さ、支えてやっから。ほら」


細い腰に手をあてると、地上の主さまが見上げてきながら低く呟いた。


「…触るな」


「落ちて死んじゃうよりいいだろ?」


「………ちっ」


舌打ちをして蔵へ向かう主さまが手にしようとしているのは、もちろん天叢雲。

致命傷をくらわすことができればあの悪鬼の命をも絶てるかもしれない。


「主さまーっ」


頭上から息吹のはしゃいだ声がして、続いて八咫烏が鳴いた。


鼻を鳴らしながら蔵に入って天叢雲を取り出すと、外でも封印を施すことのできるように専用の黒い布を巻き付けた。
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