主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
その夜息吹は熱を出した。
百鬼夜行を引き上げて幽玄町へ戻り、皆が代わる代わる息吹を心配して、顔を真っ赤にして苦しそうにしている姿に、口々に人間を非難した。
「息吹を傷つけようとするとは!」
「そうだそうだ!やっぱり息吹は幽玄町から出さない方がいい!」
――主さまはしばらく煙管を吹かしていたが、雪男を呼び寄せて耳打ちをした。
「息吹の額を冷やしてやれ。凍らせるなよ」
「主さまって意外と子煩悩…ごほっ」
煙を顔に吹きかけられて咳き込むと、主さまに反抗することもできずに大広間に寝かされている息吹の枕元に座った。
冷えすぎないように額にあてた布の上に手を置いて冷やしてやると、顔色がだんだん良くなってきた。
「主さま…なにも息吹の前で殺さなくったって…」
「先に息吹の前で人間を殺したのはお前だぞ。俺のせいじゃない」
山姫が黙り込んで、皆が騒ぐので息吹が目を覚ましそうになり、主さまはまだ苦しそうな息吹を抱き上げると自分の寝室へと連れて行く。
「主さま、俺はもうういいのか?」
「お前は氷を作れ。俺が息吹の身体を冷やしてやる」
皆が残念そうな声を上げたが寝室に移動すると、息吹が無意識ながら着物の袖をきゅっと握ってくる。
「苦しいか?楽にしてやるからな」
着物を脱がせて楽な姿勢にしてやり、雪男が盥に氷水を入れて襖を開けると、裸の息吹の前に座った主さまを見て口を大きく開けた。
「ぬ、主さま!?」
「今から着替えさせる。…なんだ?俺がこんな幼女に何かするとでも?」
「や、すみません」
盥を傍に置いて雪男がそそくさと居なくなると、箪笥から水色の新しい浴衣を出してやって氷水に浸して絞った手拭いで身体を綺麗に拭いてやり、浴衣を着せて布団をかけた。
「あれしきで熱を出すとは…人とは軟弱な生き物だな」
――妖艶に微笑む。
薄い唇は口角が上がり、緩く結んだ髪がさらりと肩から零れて息吹にかかりそうになり、隣に寝転んだ。
「あと6年は大切に育ててやるからな。だから俺の期待に応えるんだぞ」
ぽんぽんと布団を叩いてやり、朝まで見守った。
百鬼夜行を引き上げて幽玄町へ戻り、皆が代わる代わる息吹を心配して、顔を真っ赤にして苦しそうにしている姿に、口々に人間を非難した。
「息吹を傷つけようとするとは!」
「そうだそうだ!やっぱり息吹は幽玄町から出さない方がいい!」
――主さまはしばらく煙管を吹かしていたが、雪男を呼び寄せて耳打ちをした。
「息吹の額を冷やしてやれ。凍らせるなよ」
「主さまって意外と子煩悩…ごほっ」
煙を顔に吹きかけられて咳き込むと、主さまに反抗することもできずに大広間に寝かされている息吹の枕元に座った。
冷えすぎないように額にあてた布の上に手を置いて冷やしてやると、顔色がだんだん良くなってきた。
「主さま…なにも息吹の前で殺さなくったって…」
「先に息吹の前で人間を殺したのはお前だぞ。俺のせいじゃない」
山姫が黙り込んで、皆が騒ぐので息吹が目を覚ましそうになり、主さまはまだ苦しそうな息吹を抱き上げると自分の寝室へと連れて行く。
「主さま、俺はもうういいのか?」
「お前は氷を作れ。俺が息吹の身体を冷やしてやる」
皆が残念そうな声を上げたが寝室に移動すると、息吹が無意識ながら着物の袖をきゅっと握ってくる。
「苦しいか?楽にしてやるからな」
着物を脱がせて楽な姿勢にしてやり、雪男が盥に氷水を入れて襖を開けると、裸の息吹の前に座った主さまを見て口を大きく開けた。
「ぬ、主さま!?」
「今から着替えさせる。…なんだ?俺がこんな幼女に何かするとでも?」
「や、すみません」
盥を傍に置いて雪男がそそくさと居なくなると、箪笥から水色の新しい浴衣を出してやって氷水に浸して絞った手拭いで身体を綺麗に拭いてやり、浴衣を着せて布団をかけた。
「あれしきで熱を出すとは…人とは軟弱な生き物だな」
――妖艶に微笑む。
薄い唇は口角が上がり、緩く結んだ髪がさらりと肩から零れて息吹にかかりそうになり、隣に寝転んだ。
「あと6年は大切に育ててやるからな。だから俺の期待に応えるんだぞ」
ぽんぽんと布団を叩いてやり、朝まで見守った。