主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
牛車で平安町の屋敷に戻るまでの間、銀は様々な冗談で息吹を笑わせ、機嫌を取り戻すことに成功していた。


「銀さんって面白いね、父様もとっても面白いし、お母様もそんな方だったのかな」


「私の母か?冗談好きで、いつも父を笑わせ、からかっては遊んでいたものだ。まあ、銀は私の父を嫌っていたが」


「どうして?」


「こ奴は母である妹をたいそう可愛がっていたからな、嫉妬していたのだろう」


「おい、勝手な憶測を言うなよ。人と夫婦になれば、すぐに別れがやってくる。俺は葛の葉に幸せになってもらいたかっただけだ」


――人と夫婦になれば、すぐに別れがやってくる――


その言葉は息吹の胸にずしんと響き、少しだけ俯くと、空元気を出して笑顔を浮かべた。


「でもお母様は幸せだったから父様が生まれたんでしょ?素敵。私も…いつかは…」


そう呟いた時牛車が止まり、晴明に手を引かれて降りると一目散に門を潜って台所に駆け込むと顔を洗った。


…なんだかもやもやしてすっきりしない。

主さまに“好き”と伝えたけれど、あれではまるっきり伝わっていない気がする。

だが…唇は、求めてきた…


「…主さまって…なに考えてるのかよくわかんない」


…好いた女は居るのだろうか。

今まで食った女の数は?

…今まで抱いた女の数は?


ぐるぐると考えていると、肩にぽんと手が乗り、振り返ると晴明が優しい笑みを浮かべて手を引いてきた。


「どうしたんだ息吹、悩みがあるなら父様に話してみなさい」


「…主さまのこと…相談してもいい?」


「ああ、いいとも。銀は追い払っておこう。その前に少し喉が乾いたから何か喉を潤すものを…」


「はいっ、お部屋で待っていて下さい」


――悩みを聴いてくれると知って弾んだ声を出した息吹を台所に残し、晴明は庭を見渡せる部屋へと移動して腰を下ろし、にやりと笑った。


「十六夜、いつまで姿を消しているつもりだ?」


「…息吹の様子を見に来た」


「お前たちは本当に……まあいい、今回は私が助け舟を出してやる。こんなことはもうこれっきりだからな、よくよく目と耳に焼き付けろ」


本音を、さらけ出す――
< 352 / 574 >

この作品をシェア

pagetop