主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
主さまの腕枕――

ずっとこうしていたいと思いつつも、主さまは毎夜百鬼夜行へと出て行く。

ということは、主さまの妻になったとしても、毎夜こうして一緒に居られることはできないのだ。

だが昼夜逆転した日々を自分が送ればいい。

そうすればこうして主さまに腕枕をしてもらって、一緒に眠ることができる――


「主さまに主さまを引退してほしいな…」


「…突然、なんだ」


「だってそうすればずっと夜も一緒に居られるでしょ?ねえ主さま、時々百鬼夜行をお休みして傍に居てくれたら嬉しいな。…駄目?」


上目遣いでお願いしてみると、髪紐をするりと解かれて首筋に顔を埋められ、また身体が硬直してしまった。


「ぬ、主さま…っ」


「…子ができれば代替わりができる。それまでの我慢だ」


「そう、なの…?じゃあまだずっと先の話だね」


会話をしつつ、主さまの肩をぐいぐいと押して離れさせると、主さまが不機嫌そうに眉をしかめた。


「これも駄目なのか」


「これも駄目!私…主さまと違ってそういう経験ないから!あ、あんまり触らないでっ」


「ふん」


寝返りを打って不機嫌さを露わにする主さまがなんだか可愛くて、身体を起こすと主さまの耳元でこそりと囁いた。



「早く美味しくなれるように頑張るから…待っててね、主さま」


「…………わかったから耳の傍で話すな!」



――相変わらず照れ屋なのは健在で、少しほっとすると瞳を閉じ、寝たふりをしてみた。


しばらくすると主さまがこちらを向いたのがわかり、じっと見つめられ、ものすごく視線を感じたが…なんとか耐えていると、怖ず怖ずと伸びた指が頬に触れ、唇に触れた。


まだまだ子供の自分が大人になるのを待ってくれると言ってくれた主さま――


沢山食べて、沢山おしゃれをして、沢山好きになってほしい。

幸せを噛み締めながら唇を触っている主さまの手を取ると、ふわりと優しく抱きしめてくれた。


蝉の鳴き声で、この部屋の音は外には漏れていないだろう。


主さまと息吹は同時に顔を寄せ、優しくも激しい口づけを何度も交わした。
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