主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
晴明が戻り、二人で談笑していると…


「客が来たぞ。あれは…道長だな」


「道長様?こんな夜に?」


荒々しい足音が近付いて来て襖が開くと、齢30間近の道長が徳利を手に満面の笑顔で晴明の隣に座った。


「晴明!酒を飲み交わそうぞ」


「それは口実だろう?本当は…」


「や、やめろ!何を言うつもりだ!」


慌てて晴明の口を手で塞いだ道長は子供っぽく、息吹が笑っていると、ぽっと顔が赤くなった。


「い、息吹…今日もその…う、美しいな」


「え?ありがとうございます」


6年前は童女にすぎなかったが、6年経った息吹は誰もが振り返るであろう女に成長していて、

実はこのところ晴明の屋敷に通い詰めている理由は…息吹に会いたかったからだ。


晴明はそれを知っていていつも茶化し、からかう。

そして道長は息吹にとって恋愛対象ではない。


「時に道長、私と息吹は明日平安町へと物見に行く。息吹がここへ来てからはじめての外出だ」


「おおそうか、それは嬉しいだろう?その…晴明…お、俺も一緒に…」


「道長様も一緒に?うん、じゃあ一緒に行こうよ」


にこっと笑いかけてきて、一気に道長の顔が赤くなり、晴明が杯を仰ぐと腰を上げて2人から見上げられた。


「野暮用だ。2人で話していてくれ」


「はい」


「な、何?晴明、ちょっとま…」


口下手の道長に意地悪をして奥の私室へと移動すると、懐から人型の紙を取り出し、さらさらと字を書くと呪文を唱えて戸を開けて空に向かって投げた。


それは白い鳥の姿になり、一目散に幽玄町へと向かって飛び立つ。


「さて、少々意地悪をしてやろう」


6年音信不通の主さま。

自分も幽玄町へ行かなかったが、主さまもあれからここへは来ていない。


「十六夜よ、成長した息吹を見てそなたは何を思う?」


あの懐にいつも忍ばせている絵は間違いなく今の息吹の姿だ。


…主さまは、あの時すでに恋に落ちていた。

ならば実物を見て一体どんな反応をするだろうか?


「会わぬならそれで結構。会うなら、私を楽しませてもらおう」


主さまいじめ、開始。
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