主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
抱きしめているうちにまた息吹が眠りに落ちて、少し動けるようになった主さまは重たい身体を引きずりながら縁側へ出ると、外はもう白みかけていた。


…昨晩は百鬼夜行ができず、目を離すとすぐに暴れ出す各地の妖のことが気にかかって煙管を噛んだ時、含み笑いが聴こえた。


「もう動けるようになったか」


「…晴明…何故まだその格好なんだ?」


「これか。これは息吹が起きた時に喜ばせてやろうと思ってこのままなのだ。…それで?まとめと行こうか」


尻尾と耳が生えたままの晴明が隣に腰かけると、主さまは腹に空いたはずの穴があった場所を撫でながら、先程息吹が不安視していたことを率直に尋ねた。


「息吹は…息吹の寿命はどうなる?」


「木花咲耶姫が言っていたことを忘れたか?…息吹は人ではなくなった。いや、人なのだが神だ。神を身に宿している故、時が止まってしまった。理解できたか?」


「…じゃあ…人より長生きするんだな?」


「むしろ我々より長生きするやもしれぬ。そなたは絶世の美女と謳われていた木花咲耶姫の化身を妻に迎えるのだ。満足だろう?」


「…1度息吹を調べてくれ。深層心理まで探って確かな答えを見つけろ。…封印を解いたのは一体誰なんだ」


「…推測ではあるが、誰だかは察しがつく」


「…なに?」


すでに目星がついていたことに瞳を見張ると、晴明はふさふさと尻尾を揺らして主さまの手から煙管を奪って肩を叩いた。


「あくまで推測故断言は避けたい。しばし時間をくれ」


「…わかった」


会話が途切れて黙り込んだ時、主さまの部屋から息吹の小さな声が聴こえた。


「父様…主さま…」


「起きたのかい?まだ寝ていなさい、身体が痛いだろう?」


相変わらずの過保護っぷりでさっきまで真剣だった表情を笑顔に変えた晴明が室内に目を向けると、晴明の尻尾と耳に過敏に反応した息吹は瞳を輝かせてなんとか上体を起き上がらせた。


「父様…!尻尾と耳…!あ…猫ちゃんは…猫ちゃんは!?」


「猫又なら屋根裏で休んでいる。数日もすれば良くなるだろう。父様の尻尾と耳を触りたいならばそこから出ておいで。私はそこには入れないからね」


「はいっ」


色よい返事をした息吹に対して苦虫を噛み潰したような表情をした主さまに自慢げに胸を張った晴明は、這い出てきた息吹の手をやわらかく握った。
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