主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
御所へ近付くにつれ、妖たちの姿がはっきりと見えるようになってきて、そして御所内は…混乱に満ちていた。
悲鳴と怒号が飛び交い、広い御所内をどう行けば晴明たちの元へたどり着くのかわからず、落ちていた緋色の打掛を拾い上げて頭から被ると記憶を頼りに小走りに駆けだした。
「ひぃっ、怪が!」
「食ってしまうぞ!怯えろ!恐れ慄け!」
鬼や天狗、草鞋や茶碗の形をした付喪神…
小さな頃に主さまの屋敷で見た妖たちが人々を襲っている。
…が、脅かすだけで彼らは人間に攻撃しようとはしていなかった。
主さまが昔から皆に言い聞かせていたことを思い出した。
“人を襲うな。人を食うな”
「主さま…どこ?主さま!」
晴明や道長の名よりも、口からするりと飛び出た主さまの名――
武装した近衛兵たちが奮戦していたが、百鬼夜行に加わる百鬼たちは力のある妖たちなので、人間の攻撃は全く効いていなかった。
「人間見ーつけた!怖がれにゃ!!」
「きゃあっ!………猫ちゃん!?」
「!?その声…い、息吹!?」
鋭い爪のついた両脚を振り上げ、尾が分かれた猫又が突然曲がり角から現れて、
だがその妖は…小さな頃、毎日のように一緒に遊んでいた虎柄の猫又だった。
「猫ちゃん…私だよ、息吹だよ!わかる!?」
「ほ、本当に息吹にゃ!?でもこの匂い…声…本物にゃ!息吹!息吹!!会いたかったにゃ!!」
にゃあにゃあと鳴いて抱き着いてきた猫又を抱きしめて再会を喜び合っていると、妖に襲われていると勘違いした近衛兵が猫又に向かって刀を振り下ろしてきた。
「猫ちゃん、危ない!」
「息吹にあたったら大変にゃ!やめるにゃ!」
猫又の瞳が金色に光り、振り下ろされた刀を鋭い爪で受け止めると、着ていた鎧をいとも簡単に爪で引き裂いた。
「正当防衛にゃ!息吹、息吹!どうしよう、皆にも教えなきゃにゃ!」
「猫ちゃん、主さまはどこに!?お願い、連れて行って!」
「息吹、幽玄町に帰って来るにゃ!皆待ってるにゃ!」
――本当に?
食べるために待っているのではなくて?
悲鳴と怒号が飛び交い、広い御所内をどう行けば晴明たちの元へたどり着くのかわからず、落ちていた緋色の打掛を拾い上げて頭から被ると記憶を頼りに小走りに駆けだした。
「ひぃっ、怪が!」
「食ってしまうぞ!怯えろ!恐れ慄け!」
鬼や天狗、草鞋や茶碗の形をした付喪神…
小さな頃に主さまの屋敷で見た妖たちが人々を襲っている。
…が、脅かすだけで彼らは人間に攻撃しようとはしていなかった。
主さまが昔から皆に言い聞かせていたことを思い出した。
“人を襲うな。人を食うな”
「主さま…どこ?主さま!」
晴明や道長の名よりも、口からするりと飛び出た主さまの名――
武装した近衛兵たちが奮戦していたが、百鬼夜行に加わる百鬼たちは力のある妖たちなので、人間の攻撃は全く効いていなかった。
「人間見ーつけた!怖がれにゃ!!」
「きゃあっ!………猫ちゃん!?」
「!?その声…い、息吹!?」
鋭い爪のついた両脚を振り上げ、尾が分かれた猫又が突然曲がり角から現れて、
だがその妖は…小さな頃、毎日のように一緒に遊んでいた虎柄の猫又だった。
「猫ちゃん…私だよ、息吹だよ!わかる!?」
「ほ、本当に息吹にゃ!?でもこの匂い…声…本物にゃ!息吹!息吹!!会いたかったにゃ!!」
にゃあにゃあと鳴いて抱き着いてきた猫又を抱きしめて再会を喜び合っていると、妖に襲われていると勘違いした近衛兵が猫又に向かって刀を振り下ろしてきた。
「猫ちゃん、危ない!」
「息吹にあたったら大変にゃ!やめるにゃ!」
猫又の瞳が金色に光り、振り下ろされた刀を鋭い爪で受け止めると、着ていた鎧をいとも簡単に爪で引き裂いた。
「正当防衛にゃ!息吹、息吹!どうしよう、皆にも教えなきゃにゃ!」
「猫ちゃん、主さまはどこに!?お願い、連れて行って!」
「息吹、幽玄町に帰って来るにゃ!皆待ってるにゃ!」
――本当に?
食べるために待っているのではなくて?