絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

頂き物のBMW

 9月下旬、気候の良さを肌で感じることもなく、休日をいいことに遅くまでベッドに入っていた香月は、昼前にようやく起き上がった。予定がなにもない休日というのは、まるで天国のような居心地だ。
 空腹を感じて、リビングに向かう。どの時間でもあまりレイジが家にいることはなかったが、この日は珍しくリビングで毎朝のごとく、野菜ジュースを飲んでいた。
「……おはよ」
 化粧もせず眼鏡のまま、髪もぼさぼさで小さく声をかける。
「おはよう」
 なのに彼はにっこりと笑ってこちらを見た。
 とりあえず冷蔵庫から出したお茶を飲んでから、気持ち1メートル離れてソファに座る。
 彼は、隣においてあった深緑の小さな紙袋から小箱を取り出して、香月の真正面に来るように、テーブルの上に置いた。
「誕生日、おめでとう」
 全く予想していなかったので、ドキっとした。しかも誕生日は20日ほど前に過ぎている。
「えっ!? えー!?」
 笑いながらレイジを見た。
「ごめんね、忙しくて帰って来られなかったんだ」
「ううん……、ありがとう。知ってたんだ。誕生日」
 日にちを教えた記憶はない。
「もち」
 レイジは柔らかく微笑んだ。ああ、雑誌の笑顔だと冷静に記憶を呼び出す。
 深い緑の小箱は白いリボンで結ばれている。
 なんとなく仕方なく、
「開けていい?」
 とお決まりのように尋ねる。
「どうぞ」
 右手を差し出して自信満々の笑みを浮かべた。
 指輪でないことを祈りながら落ち着いてリボンを解く。
「……」
 開ける前から、一言目は「綺麗」でいこうと決めていた。
「きれい……」
「うん、似合うと思ったんだ」
 ピアスだ。スタンダードにも大小のダイヤモンドが1つずつあしらわれている。
「ありがとうございます。高いんじゃないですか? ダイヤモンドが大きい」
「似合うか、似合わないかが問題だから」
 実際素敵だと思ったし、まあ、誰でも似合うと思ったが、本当に受け取って良い物なのかどうかを内心悩む。
「つけてみて」
「あ、うん……」
「今日休みだよね?」
「うん、休み」
 ピンポーン。
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