絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 駐輪場には10台くらいの自転車しか置いていなかったせいか、レイジはユーリの物をすぐに見つけた。
「僕が運転するから」
 言われて初めて気がついた。2人で1台の自転車に乗るつもりなのである。
「え!? いやあの……」
 後ろには荷台があるので座って乗れるが!
 ハルトは鍵を外すと、1人素早く腰かけた。
 仕方なく覚悟する。まさか、腕を腰などに巻く、ということもなく、そのままサドルの後ろを握った。
「いい?」
「はい、どうぞ」
 だが、この体勢は本当はちょっときつい。まず手が痛いし、揺れたら落ちそうだ。
「行くよ……」
「わっ!」
 思いの他、よろける。香月は慌てて背中の白いティシャツを握った。
「ち、ちょっと待って(笑) 」
 レイジは笑いながら一旦停止。
「あの……」
 ティシャツから手を離し、
「代わりましょうか?」
「大丈夫、大丈夫(笑) 」
「酔ってるんじゃないんですか?」
「いや、平気平気」
「……」
 変に頑固で代わろうとしない。香月は諦めるとまた同じところを握った。
「よし、行くよ!」
 次は返事もしなかった。多分彼は今酔っているんだと思う。
 力を込めて漕ぎ出したせいか、今度は真っ直ぐ進んだ。
「あー、気持ちいい」
 というか、道、本当に合っているんだろうか。
「あの、こっちで合ってます?」
「んー?」
「道、こっちですかー!?」
「ここ真っ直ぐ行って……3分くらいかなー」
 近道があるのに……と記憶を手繰り寄せようとしたが、言うなり、店の看板が見えてくる。どちらにせよ、数分しか変わらない。
 すぐに着いた店は24時間営業の普通のスーパーだった。薬局や飲食店が隣接しているので大型に見えている。
「ありがとうござました」
 香月は降りきってから礼を言う。ただやはり、レイジに気づいているであろう人が幾人もいるように思えた。こうやって自転車を停めただけなのにこちらをじっと見ている人がいる。
「よっし、ビールでも買って帰ろう」
「あの……、レイジさんすごく目立ってません?」
「そんなことないよ。だって帽子とサングラスがあるし」
 というかそれが余計な気がしないでもない。
「私、他に買いたい物もあるので先に行ってていいですか?」
「えー!? 一緒に買い物しないの?」
 というほどの買い物でもないだろう。
「多分1人の方が目立ちませんよ」
「そんな気にしないくていいよ。……嫌なら仕方ないけど」
「化粧品とか見たいし、先行きますね」
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