絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 振り払うべきだと思った。深夜の割りに人が多い。
 さて、レイジといえど男1人での買い物だ。まあ、ファンにサインねだられるかもしれないけど、少なくとも香月より買い物に時間はかからないと思う。
 だが予想は外れ、香月の方が先に出てきてしまい、仕方なく自転車の横の縁石に座って待つことにする。この時、すでに時刻は12時半を回っていたので人もだいぶ減っていた。
 とりあえず早くしてほしいな……携帯の番号聞いておけばよかった。髪の芯まで冷めるほど寒くなくて、幸いだが。
 レイジはそれから10分以上経過して、驚くことに店内ではなく、駐車場の方から現れた。
「あれ、いつからいたの?」
「10分以上前からです」
 笑いながら自転車にまたがるレイジの後ろに、香月は無言でまたがった。帰ったら絶対携帯番号聞こう。
「大丈夫だった?」
「はい」
 また少しうねり、それでもなんとか進みだした駐車場の途中、突然ブレーキがかかった。
「何してんの?」
「見てのとおりの深夜デート」
 国道から入ってきた黒のセルシオは黒塗りだ。運転席の金髪の男はサイドウィンドから顔を出すとニヤニヤとこちらを見てきたが、どうやらレイジと親しいらしい。
「これから飲み行くんだけど」
「いいねー」
「また今度誘う」
「いや、行くよ」
「じゃあ彼女さんもおいで」
 目を見開いた。
「や、彼女じゃないし」
 レイジは冷静に続ける。
「え。だってデートなんだろ?」
「いや、一緒に住んでる子。同居…というか、同棲じゃない」
「あぁ、マンションの」
「そう。一旦家帰ってからでもいい? 自転車置いてこなくちゃ」
「あ、いいです」
 そこで香月は初めて口を開いた。
「ここからだと道分かるから1人で帰れます」
「危ないよ。もう12時回ってるし」
 続けて初対面のセルシオも、
「そうだよ。この辺夜は危ないから。東京マンションに先に行ってるよ」
「おう」
 セルシオは信号を渡ると、私たちが元来た道を走って行った。
「すみません……」
 香月はすぐに謝る。
「何が?」
「いや、そんな。自転車だし1人で帰れたのに」
「僕が送って行くって言ってんだからそれでいーの」
「……」
「ユー何してるかなあ……」
「ユーさんも行くんですか?」
 どさくさに紛れてそう呼んでみる。
「いや、行かない」
 少し安心する。
 今度は来た時間の半分ほどでマンションに着く。レイジは自転車を置くと、こちらに手を振りながら淡々とセルシオに乗り込んでいった。
「いってらっしゃい」
 香月は小声でそう言ってみる。たが、おそらく聞こえてはいない。
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