絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「もしもし? 香月か?」
 宮下の声は少し上ずっている。
「はい……」
「大丈夫か?」
「……まあ……」
「そうか……。どうした?」
「……いえ、あの……」
 言いたいことは特にない。
「大丈夫か? 今、どこ?」
「家です」
「自分の?」
「はい」
「そうか……。飯は? ちゃんと食べてるか?」
「……食べたいとき……」
「うん。食べたいときでいいけど」
「……」
「どうした? 何か、店のことか?」
「あ、そう、お店……私、今休職でしたっけ?」
「いや、有給。ちゃんと給料は入るよ。だけど、年40日しかないから、それをすぎたら休職にしようと思ってる」
「私、どれくらい休んでます?」
「え……と、まだ一週間くらい? いや、6日かな」
「なんだか……長い時間が過ぎたような気がするのに。まだそれだけだったんですね」
「……ゆっくり休めばいいよ。店の奴らには、とりあえず体調不良と伝えてある。レイジさんと相談してな」
「さっき……メール見ました。皆、何の病気なのか疑ってる感じでした」
「みたいだな。西野は特に信じてない」
「あとで……連絡しておきます」
「うん。また、出て来たくなったら言ってくれればいいから」
「はい」
「じゃぁ、そろそろ切るな」
「……」
「香月?」
「……今、どこですか?」
「今? 今は(笑)、風邪で家で寝てるよ。実は店を休んでる」
「あ、そうなんですか……」
「今日からな。偶然明日明後日連休だったから、3日は休める」
「そっか……」
「……どうした?」
「ううん、なんでもないです」
「うん……」
「……今、思い出したから聞くんですけど……」
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