絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 自炊は普段全くやらない。それは単に面倒だからである。100%外食。朝のモーニングから始まり、昼の弁当、夜の居酒屋。それでもそれなりに野菜を摂るなど気は遣っているつもりだが、やはり自宅でこんな温かい物を出されると、つい癒されてしまう。
「……佐伯はゲームうまいなぁ……それ、勝ってるんだろ?」
「え? あ、毎日やって……るんです」
 坂野咲邸から貰われてきたWiiだが、線だけ繋いだままの状態といっていい。する暇もないし、またしたいと思ったことも特にない。
 画面では学生服の女の子と半身裸体の男が殴りあっているが、勘では佐伯の方がまだ体力があるはず。
 キッチンのカウンターに座ってそのまま食事をしていた。目の前にいる吉原が、まさか自宅で食事を作ってくれるこの妙な構図。多分もう2度とないだろう。しかし、うまい。
「……どうした? 気分悪い?」
 食事とゲームに気をとられて、隣に座っている香月に気づくのが遅れた。
「……ソファで寝てもいいですか?」
「あぁ……」
 吉原に気付かれないよう、返事だけにとどめておく。
 最近、眠れないのだろうか……。
 顔色が優れない。
 香月はそのままソファに座っている永作の膝に頭を乗せた。
 永作は予想通り何も言わない。
 ソファの前であぐらをかいていた西野が振り返って一瞬驚いたがまたすぐ画面に視線を向ける。
 そのまま、30分くらい時は流れた。
 飯はうまいし、仕事は休みだし、なかなか良い環境である。もしこれがルームシェアであって、このメンバーならそれほど悪くはないと思うだろう。
「さて、そろそろ帰るか……香月ほんとに寝てんの?」
 膝枕をしたのは最初だけだった。今はソファで横になり、宮下が持ってきた薄い布団が一枚かけられているだけ。
「う……ん……」
「先輩、帰れます?」
 佐伯が心配そうに聞いている。
「……」
「あ、また寝た」
「いいよ、起きるまで置いておけば」
 ただ香月を不憫に思い、軽く言う。
「でも、ここに一人で置いておくわけには……」
 それでも西野は、正統な意見を述べた。
「香月が起きてから帰ればいいじゃないか」
「俺達、カラオケ予約してるんです」
「そうか……」
「なんか、起こすの可愛そうですね」
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