絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

ゆかいな仲間たち

「うざい」
 西野誠二は、その言葉とは裏腹に、テーブルに丁寧にカップラーメンを置くなり続けた。
「絶対、うざい」
 お湯を入れたばかりのラーメンの上に割り箸を乗せ、椅子に座りながらもなお、
「うーざーいー」
「っとに、あんたとご飯食べるとまずくなる」
 溜まりかねた玉越は眉間に皺を寄せて放った。スタッフルームの一角では、今日も仲良しが自然と集まってくる。
「だーってさ、うざいんだよ」
「はいはい」
 香月が有給で半月ほど休みをとった間、その抜けた人員を補うため、一人臨時で雇われた女性がいた。その名は小野寺理恵、23歳独身。
「聞いてくれ……」
「何?」
 玉越はそれほど興味はないだろうが、話を聞くフリをする。
「レジでいるとこっそり手を触ってくるんだ……」
「いいじゃなあい。というか、のろけ?」
「俺、あーゆーのダメなんだよ……。なんか見え見えじゃない?」
「でもこっそりやるんでしょ?」
「そうなんだけどさ。多分、俺達以外の誰も知らないと思うんだけどさ。というか、倉庫の奴らの話聞いてたら、逆に人気らしいし。だけど……あーゆーぶりっ子ってダメなんだよなぁ、俺……」
「告白されたの?」
 ずっと話を聞いていた香月は聞いた。
「いや、そういうんじゃない。ただ弄ぼうとしてるだけのような……そんな感じ」
「分かんないじゃん、そんなの」
 玉越はオムライスをつつきながら続ける。
「分かってるだろ……いや、多分玉さんは分かってるはずだ」
「玉さんゆーな」
「好みじゃないの?」
 既に食べ終えた香月は真面目に聞く。
「全然」
「そういうことか」
 玉越は納得する。
「まあ、確かに。好みだったらそのままいかないでもないけど……。うざいんだよなー」
「じゃぁ言えばいいじゃん、うざいって」
「そろそろ言おうかと思ってる」
「言えばいいじゃんねー」
「うん」
 香月は玉越の意見に素直に納得した。
「それで辞められたっていいじゃん。別に」
「……もしかして、同じく嫌いなの?」
 西野は鋭く聞く。
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