絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 

強引身勝手な芸能人

「会いたかった……」
 いやいや、なんですか、この人。
 後ろの人も笑ってるし。
「……」
「会いたかったでしょ?」
 これも芸のひとつなのかと思わせる。レイジ、既に30代後半でありながらも、そのしなやかな肉体と端整な顔つきは丁寧に手入れされてあることの証でもある。
「……」
 会いたくなかったのかといえばそうではない。
 だが、会いたかったのかと聞かれれば、疑問に思ってしまう今日この頃である。
 レイジは玄関からこちらに、両手を差し出しながら近づき、ついに香月をとらえた。
「……」
 彼は何も言わず、その感触を確かめるように、頬ずりをし、ぎゅっと抱きしめ、匂いを嗅ぐ。
 これは一体、何の行為なのだろう。
 それを考えながら、しばし棒のように立ち尽くした。
「ずっと心配してた……。元気なのかなって」
 拉致事件以来約一カ月、海外公演にも関わらず毎日電話はしていた。だって、一方的にかかってくるから。「今何してる?」「ご飯食べた?」「仕事はどう?」「体の調子は?」etc.……。
「うん……」
 以外に何も言葉は思い浮かばない。
「よかった。やっぱり、会うまで心配でさ……」
「うん……」
「……どうした?」
 彼は顔を両手で挟むと、少し上に上げた。
「何? 調子悪い?」
「うーん……」
「気分悪い?」
「ううん」
「悩み事?」
「うーん……」
「部屋入って話そうか…」
「……うん」
 まあ、正直どっちでもいいと思いながら。だって、基本的にレイジは人の話を聞かない。人の話は単なる式であって、そこからの証明パフォーマンスが長いのだ。
「……」
 レイジの部屋に入ったのは何度目かになるが、上質のふかふかのベッドを見るといつも飛び乗りたいと思う。だが、今日はつい倒れこんでしまった。確かにこれは疲れの現象だろう。
 自分は疲れている……。
 一体何に……。
 天井のシャンデリアを見つめながら、ゆっくり瞳を閉じた。
 ふかふかのベッド、香水の匂いが少しきつい。

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